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ほんじょまつざかちょう

本所松坂町

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《本所松坂町(ほんじょまつざかちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,622 字 · 55 頁

青空文庫

柄にもない気のきいた台詞である。下顎のぎっくりと骨ばった、平べったい顔は酒で赤黒く火照っていた。そいつが、盲目縞の着物に対の羽織というと、いかにも板についているが、それも垢じみて、裾がすりきれている。

「そろそろさめてきた――早速だがいっぱいひっかけたいな」

落し差しにした一刀を鞘ぐるみ腰からはずして、縁ばたにおいた一升徳利を囲炉裏の前へ押しだした。

それから、すぐ、あたりをきょろきょろと見廻しながら、

「お絹はどこへいった――さっき、声が聞えたと思ったが」

ほそい眼にかすかな微笑をうかべた。

「藤左衛門さんとこへ風呂をもらいにいったよ、何度も呼びにきてくれたもんでな、ほっといてもわるいと思って」

「まア、いいやな、そのあいだにひとやすみするかな」

立ちあがって奥の間へ入ろうとするのを、おのぶは慌てて障子の前へ立ちふさがった。

「春次郎が寝ついたばかりで、お前さん、音を立てちゃすぐ眼がさめちまうよ」

「今夜はいやに嫌うじゃねえか――よし、ほいじゃ、用談の方を先きに片づけちまうべい」

どうせ、手の中の獲物である。ジタバタするだけさせておいてからおさえつける愉しさを心得ぬほどの青二才ではない。