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ほんじょまつざかちょう
本所松坂町
尾崎 士郎
線上閱讀尾崎 士郎《本所松坂町(ほんじょまつざかちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,622 字 · 55 頁
一学は自分の部屋へ入ると、ごろりと横になり、そのまま高鼾をかいて眠ってしまった。長いあいだかかって座敷のあと片附けをしている女中たちのささやきが、しいんとなった夜気を縫って、しばらくぼそぼそと聞えていたが、やがて、それもひっそりとなった。
しんしんと更ける丑寅の刻、――いまでいうと午前三時半という頃おいであろうか、一学が眼をさましたときは、屋敷の中は乱闘のまっ最中であった。すぐ間近かにひびく陣太鼓の音で眼がさめたのだ。一学は慌ててはね起きた。袴をはき股立ちをかかげるが早いか、彼はその晩、上野介と左兵衛の眠っている筈の奥の部屋へ駈けつけた。
浪士の一隊は、小林平八郎以下の護衛の武士に防ぎとめられて、まだ玄関口から中の間の廊下へ踏みこんできたばかりの所だった。
奥の寝所ではさすがに上野介は達人らしく敷布団の上に正坐していたが、十六になったばかりの左兵衛は薙刀を片手に持ったまま、おろおろした表情で部屋の前を往ったり来たりしている。どよめく声は前後左右から迫っていた。一学も、今となってはどこへ上野介親子を逃がしていいのか見当がつかなかった。いざとなったら、次の間の壁を楯として、とびかかってくるやつを一人一人片っぱしから斬り倒すだけのことである。