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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

と云って芳造は唇を歪めた、「――人間には定命ってものがあるそうだ、おやじは定命だったかもしれない、だがそうじゃあなかったかもしれない、働きづめに働いて、なんのたのしみもよろこびもなく、往来の土の上へぶっ倒れ、血を吐いて死んでしまった」

戸板でその死躰が運ばれて来たとき、妻は村の若者たちと酒に酔って騒いでいた。しかしそれは珍らしいはなしではないのだし、父の死とは関係のないことだ。芳造はいまでもそう思っていると云った。たとえ母がそのとき慎しくしていたとしても、父はやはり死んだろうからだ。ただそのあと、――と芳造が話し続けようとしたとき、障子の向うで声をかけてから、女中がはいって来た。そして茶道具を片よせ、二人の前へ食膳を据えたのち、おはちをおうめの脇へ置いて、お願いしますと云った。おうめはすっかり戸惑い、顔を赤くして芳造を見た。女中が去ってから、芳造は頷いた。

「こういう店ではね」と彼は云った、「男と女の二人伴れの客には、気をきかせて給仕をしないものらしいよ、聞いたことだけれどね」

「ではあたしたち、そんなふうに思われてるのね」

「めしにするかい」

「話のあとを聞きたいわ、こんなうちへあがったの初めてだし、あたしなんにも喰べられそうじゃないの」