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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

おみきはぞっとし、身ぶるいをした、白くなった唇を噛み、両手を拳にしたが、その拳もふるふるとふるえた、「――そんなことができるかどうか、わからない、でもその覚悟をしなければならない、いざとなれば女は強くなるというじゃないの、いざとなればあたしにだって」

そのときのことを想像したのだろう、おみきの顔から血のけがひき、唇をもっときつく噛みしめながら、よわよわしくかぶりを振った。

「だめだわ、あたしにはそんなことはできない、とてもできそうもないと思うわ」とおみきは呟いた、「あたしがそういう気持になったとしても、あの人のほうがもっとすばやいだろう、あたしがなにかしようとするより先に、あの人のほうであたしを、足腰も立たないようなめにあわせるにちがいない」

おみきはふるえながら肩をすぼめた。いざとなれば女は強くなるという。けれども、千太郎がどんなことをしてきたかを考えると、それだけでもう全身が竦むようであった。できない、とおみきは首を振った。あたしにはとてもできない。ではどうしたらいいのか、あの人をみすてようか、佐野屋という宿屋へゆかなければ、幸助という人は諦めるだろうか、大蛇の辰とかいう人はどうするだろうか。