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そめきちのしゅぼん

染吉の朱盆

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《染吉の朱盆(そめきちのしゅぼん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 頁

青空文庫

「かしこまりました」

で、女は店を出た。

怒ってしまったのは岡八である。

「馬鹿にしゃァがる! 一体何んだ!」心で毒吐いたものである。「みなりが悪いとこんな目に会う。百五十両だと吹っかけて置いて、二十五両だっていやあがる。ないといいながら三枚がところ、心あたりがあるというちきしょう本当に張り倒してやるかな。……そうはいっても俺の手には、二十五両でも這入りそうもないなあ。……それにしても一体あの女、何んで染吉の朱盆ばかり、そんなにも沢山ほしがるんだろう?」

フラリと岡八往来へ出た。すぐ眼の前を女が行く。尾行るという気もなかったが、矢っ張り後をつけて行った。出たところが神保町、店附の立派な古物商があった。

女が這入って行くではないか。

「おや」と思いながら岡引の岡八、つづいて店へ這入って行った。

主人と女客との応待は、全く以前と同じであった。

「染吉の朱盆、ございましょうか」

今はないが取り寄せようという。

そこで女が手附を払い、受取をとって立ち去ったのである。

「これはおかしい」と岡引の岡八、本式に女をつける気になった。「まるでこのおれの邪魔をしているようだ。