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そめきちのしゅぼん

染吉の朱盆

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《染吉の朱盆(そめきちのしゅぼん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 頁

青空文庫

「成る程」といったのは岡八である。

「大して面白い話でもないな」

「どうしてだい、面白いじゃァないか」

「古いありきたりの因果物語りさ」

「そうばかりもいわれないよ、遺跡がのこっているのだからな」

「おおお縫様の屋敷跡か」

「そっくりそのまま残っているのさ」

「住人がないとかいったっけね」

「草茫々たる化物屋敷さ」

「根岸附近だとかいったっけね」

「そうだよ」と半九郎うなずいた。それからまたも変に皮肉に、盗むような笑いを浮かべたが、

「どうだい兄貴、謎が解けるかね?」

それには返辞をしなかったが、

「十年前の話なんだな?」

「安政二年の物語りさ」

三

岡八というのは綽名である。

「一つの事件をあばこうとしたら、渦中へ飛び込んじゃいけないよ。いつも傍から見るんだなあ。渦の中へ一緒に巻き込まれようなものなら、渦を見ることが出来ないからなあ。ほんとに岡目八目さ」

これがこの男の口癖である。その本名は綱吉といい、非常に腕っこきの岡引であった。

一つ二つ例を挙げてみよう。

一人の女が訴え出た。

「夫が家出をして帰りません」と。

数日たって女の隣人が、井戸に死人があると訴え出た。