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ざくろ
柘榴
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《柘榴(ざくろ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,342 字 · 25 頁
――そのときのことである。秋も終りにちかい季節だったが、夜半と思うころふと眼が覚めると、庭のほうで横笛の音がしていた。江戸の御殿にいるうち、真沙も音曲はひととおり稽古をして、笛などもかなり聞き分けられるのだが、そのとき聞く節調はまったく耳馴れないものだった。節調とはいえないかも知れない。ただ即興に好みの音色をしらべているのかも知れない。淡々として平板で、少しも人の感情に訴えるものがなかった。笛は間もなく止んだ。
起きられるようになって、かたちばかりの祝いに客をまねいた。その後のことであるが、客を送り出した庭さきで、ふと伊助を呼止め、
「おまえ笛をお吹きか」と訊いてみた。老僕はまごついたように叩頭して、いたずらでございますと口を濁した。金造と代ってから二年あまりになるが、いつも黙々と働く姿を見るだけで、彼とは余り言葉を交わしたことがなかった。もう六十七八であろう。痩せてはいるが骨の確りした躯つきで、肩のあたりにどことなく枯れた品がある。口数が極めて少ないし、なにをするにもおっとりと静かだった……。なにか過去に事情があって身をおとした人に違いない。こう思ってそのときはなにも云わなかったが、数日のち彼が庭を掃いていたとき、縁側へ茶を運ばせて、少し休むようにと呼んだ。