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かきのたね
柿の種
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《柿の種(かきのたね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,202 字 · 139 頁
短章 その一
その中の数葉を選んでこの集の景物とする。これも大正のジャーナリズムの世界の片すみに起こった、ささやかな一つの現象の記録というほかには意味はない。
この書の読者への著者の願いは、なるべく心の忙しくない、ゆっくりした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたいという事である。(昭和八年六月、『柿の種』)
短章 その一
棄てた一粒の柿の種
生えるも生えぬも
甘いも渋いも
畑の土のよしあし
*
日常生活の世界と詩歌の世界の境界は、ただ一枚のガラス板で仕切られている。
このガラスは、初めから曇っていることもある。
生活の世界のちりによごれて曇っていることもある。
二つの世界の間の通路としては、通例、ただ小さな狭い穴が一つ明いているだけである。
しかし、始終ふたつの世界に出入していると、この穴はだんだん大きくなる。
しかしまた、この穴は、しばらく出入しないでいると、自然にだんだん狭くなって来る。
ある人は、初めからこの穴の存在を知らないか、また知っていても別にそれを捜そうともしない。
それは、ガラスが曇っていて、反対の側が見えないためか、あるいは……あまりに忙しいために。