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くりのはなのさくころ

栗の花の咲くころ

佐左木 俊郎

線上閱讀佐左木 俊郎《栗の花の咲くころ(くりのはなのさくころ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,440 字 · 14 頁

青空文庫

嘉津子は母親の胸の中で静かに歔欷を始めた。

「殺すようなことまでしねえよ。威すだけさ。お父さんの気持ちになれば無理のねえことだし……」

松代は漸くそれだけを言った。

三

暗くなるまでには四時間あまりもあった。高清水は、歩いて行っても、三時間で行けるところだった。汽車もあるにはあるが、小牛田で東北本線に乗り換え、瀬峯まで行ってから軽便鉄道で築館まで行き、そから高清水まで歩くとなると、乗り換え時間の都合や何かで、三時間ぐらいで行けるかどうかわからなかった。それに、嘉三郎は、蟇口をもたずに家を出て来てしまったのだ。併し、汽車のあるところを、てくてく歩いて行くなどということは、嘉三郎の気持ちの、どうしても許さないことだった。そればかりではなく、例えどこまでにもしろ、無一文で旅をするということは、嘉三郎にはどうしても出来なかった。

嘉三郎は、途中、しばらく躊躇してから、米問屋に這入った。ちょうど折よく主人は家にいた。そして嘉三郎はすぐ茶の間へ通された。

「嘉三郎さん! それはいつかの兼元じゃねえかねえ?」

細長い風呂敷包みに眼をやりながら、米問屋の主人は、微笑を含んで言った。