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らくになったというはなし
楽になったという話
山之口 貘
線上閱讀山之口 貘《楽になったという話(らくになったというはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,208 字 · 5 頁
しかし、佐藤氏のそういう配慮も立ち消えになったわけである。
かように、僕の足は歩き通しなのであった。だから、靴の数も人並以上はきこなしたのであるが、はいた靴のうちで上等なものと言えば、小指の上のあたりの破けたものがそれで、殆どが、新たにはきかえるものでも穴の開いた靴だった。
ところで、そういう僕が、結婚したり、新らしい靴を買ったりしたのであるから、そこに楽になったということがあるのかとおもうとその楽とは意味が違っていたのである。僕としては靴よりも先にズボンを欲しかったのであるが、僕の相手が言うのには、丸の内界隈を歩いている人には破れ靴をはいている者が無かったそうである。あの辺の生活の靴と僕の生活の靴とを比較されてはたまらないが、とにかく下から上へと順々にということにして十三円五十銭を投じたのがこの靴なのである。次はズボンであるが、そこまで手が届かぬうちに秋になってしまい、眼先にはもう冬の気配がうようよしているのである。ズボンや上衣など手に入れる頃までにはまたそろそろ靴には穴が開いているのだろうが。
買ったばかりのこの靴をはいて、物価統制に喘ぐ街中を、ある日のことK氏を訪ねて行った。