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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
兵部が笑ったからである。六郎兵衛が言葉を切ると、兵部は「気にするな」と云った。
「聞いておる、つづけるがいい」
「私の申すことがお信じになれないようですな」と六郎兵衛が云った。すると兵部が云った。
「おれは単直を好む、それだけのことだ」
「私は単直に申しています」
「よし、つづけるがいい」
六郎兵衛は心のなかで、舌打ちをした。
――これは相当なやつだぞ。
兵部が笑ったのは、意味があるのではなく、こちらの話しの腰を折るためである。こちらの話しの調子に乗らぬために、わざと話しの腰を折ったのだ。
「かれらは」――と六郎兵衛は云った、「自分たちの父や、主人や、兄たちが、誰の手によって抹殺されたか、その原因がなんであるかを、知っています」
「そのほうもか」
「私もです」
「妄想ではあるまいな」
「それは侯が御存じの筈です」
「あとを聞こう」と兵部が云った。
六郎兵衛はずばずばと云った。さる人が渡辺ら四人に命じて、陸奥守に放蕩をさせ、綱宗が逼塞になったこと、そこで放蕩をさせた事実を湮滅するために、四人を暗殺させたこと。これらはみな「さる人」の方寸によって行われたことであるし、暗殺された遺族はみなそれを承知していることなど、まったく無遠慮に云ってのけた。