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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

「おれなら、その場で斬ってしまうよ」

「すると坂本八郎左、まっ赤になった、まっ赤になりおって、かように面罵されては男の道が立たぬ、と申した、そうか、とおれは云った、そうか、男の道が立たぬか、それなら男の道の立つようにしてやろう、とおれは云った、まず場所と時刻をきめよう」

「それで殿へ訴えたのか」七十郎のそう云うのが聞えた。

「やつめ、宿老に泣訴し、殿のお袖にすがりおった」

「それでおしまいさ」

七十郎が笑った。十左はさらに云った。

「おれは怒ったのではない、彼を怒らせたかったのだ、そうして決闘へもってゆきたかったのだ、それをあの八郎左め」

「即座に斬ればいいんだ」と七十郎が云った、「坂本はむろんのこと、畑も宮本も渡辺も、もっと早く斬ってしまえばよかった、そうして君側の奸を除けば、殿の御逼塞などということにはならなかったろう」

「そこもとは身軽だからそう云えるのだ」

「殿が御逼塞になってから斬るくらいなら、そのまえに斬るのが当然じゃないか」

「そこもとは身軽だから、そう簡単に云うことができる」

と十左が云った。すると七十郎が云った。

「ばかをいえ、もともと侍の身命は軽いものだ」