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はし
橋
池谷 信三郎
線上閱讀池谷 信三郎《橋(はし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,108 字 · 37 頁
心を唱う最後の歌を、せめて、自分を知らない誰かに聞いてもらいたい慾望が、彼女のか弱い肉体の中に、生を繋ぐただ一本の銀の糸となって、シイカは小脇に抱えた籠の中の鳩に、優しい瞳を落したのだった。
9
一台の馬車が、朗かな朝の中を走って行った。中には彼ともう一人、女優のように華手なシャルムーズを着た女が坐っていた。馬車は大きな音を立てながら、橋を渡って揺れて行った。彼の心は奇妙と明るかった。橋の袂に立っている花売の少女が、不思議そうな顔をして、このおかしな馬車を見送っていた。チュウリップとフリイヂヤの匂いが、緑色の春の陽差しに溶けこんで、金網を張った小いさな窓から、爽かに流れこんできた。
何もかもこれでいい。自分は一人の女を恋している。それでいい。それだけでいい。橋の向うへ行ったとて、この金網の小窓からは、何がいったい見られよう。……
三階建の洋館が平屋の連りに変って行った。空地がそこここに見えだした。花園、並木、灰色の道。――たった一つのこの路が、長く長く馬車の行方に続いていた。その涯の所に突然大きな建物が、解らないものの中で一番解らないものの象徴のように、巍然として聳えていた。