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しょうせつのかきおき

正雪の遺書

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《正雪の遺書(しょうせつのかきおき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,367 字 · 15 頁

青空文庫

咄嗟にこのように思いました。

「処士の身分で華美な振舞、世の縄墨を乱す者とあって、軽く追放重くて流罪、遁れ了すことはよもなるまい」

それで私は心竊かに覚悟を定めたのでございます。そうして当日は、乗物をも用いず辰の口のお役宅まで、お伺いしたのでございました。

するとどうでしょう、お取次の人がさも鄭重に案内して、質素ではあるがいとも結構なお座敷へ、通されたではございませんか。それからお菓子、それからお茶――お客人としての待遇を致されたではございませんか。

「はてな?」と私は考えました。

「皮肉か? それともお戯むれか? しかしかりそめにも天下のご老中! 左様なことはよもあるまい。深い仔細のある事かも知れぬ」

――こう思わざるを得ませんでした。

やがて傍らの襖が開いて姿を現わされたのは貴郎でした。

「由井殿ようこそ参られたの」

立ったままこの様に声を掛けられ、双方の間三尺を距てず、ピタリとお坐りになられた時には、いよいよ驚いてしまいました。

「今日は公の会見ではのうて、平の松平信綱と正雪殿との懇談じゃと、斯様思召し下されい……さてそこでご貴殿のご器量と、ご名声とにお縋りしてお頼み致したい一儀がござるが、お聞き届け下されようや? ――と藪から棒に申してはご返答にもお困りであろうが、余の儀ではござらぬ、謀叛遊ばされい!」