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しのふちより
死の淵より
高見 順
線上閱讀高見 順《死の淵より(しのふちより)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,084 字 · 38 頁
死者の爪
三階の窓
爪にガクンとあとが残り、それが爪がのびるとともに消えるのに半年近くかかった。詩が書けはじめたのは(さきに退院後と書いたが実際は)その半年すこし前のことである。
「死の淵より」という題の詩をひとつ書こうと思ったのだが、できなかった。できたら、それを全体の詩群の題にしようと思っていた。それはできなかったのだが、全体の題に残すことにした。
(昭和三十九年六月十七日、再入院の前日)
死者の爪
つめたい煉瓦の上に
蔦がのびる
夜の底に
時間が重くつもり
死者の爪がのびる
三階の窓
窓のそばの大木の枝に
カラスがいっぱい集まってきた
があがあと口々に喚き立てる
あっち行けとおれは手を振って追い立てたが
真黒な鳥どもはびくともしない
不吉な鳥どもはふえる一方だ
おれの部屋は二階だった
カラスどもは一斉に三階の窓をのぞいている
何事かがはじまろうとしている
カラスどもは鋭いクチバシを三階の部屋に向けている
それは従軍カメラマンの部屋だった
前線からその朝くたくたになって帰って
ぐっすり寝こんでいるはずだった
戦争中のラングーンのことだ
どうかしたのだろうか
おれは三階へ行ってみた
カメラマンはベッドで死んでいた