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もうりせんせい
毛利先生
線上閱讀芥川 竜之介《毛利先生(もうりせんせい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,383 字 · 25 頁
いや、その喜ぶと云う気さえ出なかったほど、先生の去就には冷淡だったと云えるかも知れない。殊に自分なぞはそれから七八年、中学から高等学校、高等学校から大学と、次第に成人になるのに従って、そう云う先生の存在自身さえ、ほとんど忘れてしまうくらい、全然何の愛惜も抱かなかったものである。
すると大学を卒業した年の秋――と云っても、日が暮れると、しばしば深い靄が下りる、十二月の初旬近くで、並木の柳や鈴懸などが、とうに黄いろい葉をふるっていた、ある雨あがりの夜の事である。自分は神田の古本屋を根気よくあさりまわって、欧洲戦争が始まってから、めっきり少くなった独逸書を一二冊手に入れた揚句、動くともなく動いている晩秋の冷い空気を、外套の襟に防ぎながら、ふと中西屋の前を通りかかると、なぜか賑な人声と、暖い飲料とが急に恋しくなったので、そこにあったカッフェの一つへ、何気なく独りではいって見た。
ところが、はいって見るとカッフェの中は、狭いながらがらんとして、客の影は一人もない。置き並べた大理石の卓の上には、砂糖壺の鍍金ばかりが、冷く電燈の光を反射している。自分はまるで誰かに欺かれたような、寂しい心もちを味いながら、壁にはめこんだ鏡の前の、卓へ行って腰を下した。