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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
お時は一張羅の晴れ着をぬいで、ふだん着の布子と着替えた。それから大事そうに抱えて来た大きい風呂敷包みをあけて、扇子や手拭や乾海苔や鯣などをたくさんに取り出した。
「お屋敷から頂いて来たんだね」と、十吉もありがたそうに覗いた。
お時は番町のお屋敷へあがるたびに、いろいろのお土産を頂いて帰るのが例であった。殊にきょうは初春の御年始に伺ったのであるから、何かの下され物はあるだろうと十吉は内々予期してはいたものの、いつもと違ってその分量の多いのに驚かされた。
日が落ちると急に冷えて来て、春のまだ浅い夕暮れの寒さは、江戸絵を貼った壁の破れから水のように流れ込んで来た。十吉は炉の火をかきおこして夕飯の支度にかかった。お時は膳にむかったが、碌ろく箸もとらないでぼんやりしていた。
「きょうはお屋敷で御馳走でもあったのかね」と、十吉は笑いながら訊いた。
「どうも困ったことが出来たもんだよ」
溜め息をついている母の屈託らしい顔をのぞいて、十吉も思わず箸をやめた。
「なんだね。お屋敷に何か悪いことでもあったのかね」
「むむ。だが、滅多にひとに言うのじゃないぞ」と、お時は小声に力をこめて言った。