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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

そうして、自分でわざと不安の種を作って、このままには捨てて置かれないように苛々して見たりした。駕籠がだんだんに吉原から遠くなって行くのが、何だか心さびしいように思われてならなかった。

「ここはどこだ」と、彼は駕籠の中から声をかけた。

「山下でございます」

まだ上野か、と外記は案外に捗の行かないのを不思議に思った。と同時に、これから屋敷へ帰るよりも、吉原へ引っ返した方が早いというような、意味のわからない理屈が彼の胸にふとうかんだ。

「これ、駕籠を戻せ」

「へえ、どちらへ……」

「よし原へ……」と、彼は思い切って言った。

駕籠はふたたび大門をくぐって茶屋の女房を面食らわした。茶屋では直ぐに大菱屋へ綾衣を仕舞いにやった。そんな訳であるから、さっき帰ってからまだ二とは過ぎていないのに、女の迎いを急がせる。むこうは稼業だから口へ出してこそ言わないが、殿様もあんまりきついのぼせ方だと茶屋の女房たちに蔭で笑われるのも、さすがに恥かしいように思われた。

表は次第に賑やかになって、灯の影の明るい仲の町には人の跫音が忙がしくきこえた。誰を呼ぶのか、女の甲走った声もおちこちにひびいた。