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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

雨戸を閉めてしまって、母子は炉の前にむかい合った。降りつづいた梅雨の夜はうすら寒かった。雨はざあざあと降っている。近所の田川が溢れるように、ごぼごぼと流れる音が雨にまじってさわがしく聞えた。

明けても暮れても母子さし向いのこの一家では、別に新しい夜話の種もなかった。二人は黙って別々に自分の思うことを考えていた。若い十吉はお米のことを思うよりほかはなかった。お時はさすがに思うことが多かった。わが子のこと、嫁のこと、それから殿様のこと、それからそれへと毎日同じことがいろいろに考えられた。そのうちでもこの頃のお時の胸をいっぱいに埋めているのは、番町の殿様の問題であった。箕輪と山の手と懸け離れていては、そうたびたびたずねて行く訳にはいかない。たとい近いとしても、うるさく出這入りはできない。ただ、よそながら案じているばかりである。

先月そっとお屋敷をたずねた時にも、殿様はやはりお留守であった。お嬢さまの顔はいよいよ窶れていた。ことしになっても殿様の放埒はちっともやまないとのことであった。お時は又もや涙ぐんでとぼとぼと帰って来た。

自分の力ではどうにもならないとは知りながらも、自然の成り行きに任して置くということは考えるさえも怖ろしかった。