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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

「おそろしく用心がいいね」

「ここらは下駄を取られますから。格子に錠がないんですもの」と、お君は言い訳をしながら濡れた傘を受取った。

奥に寝ていたお絹はすぐに起き直ったらしい。林之助が足駄をぬぐのを待ちかねたように声をかけた。

「お前さん。きのうなぜ来てくれなかったの」

「きのうは御用で牛込へ行った」

枕もとに坐った林之助の顔を、お絹は黙ってじっと眺めているので、彼は堪えられなくなって眼をそむけた。

「下手な捕人のように、ふた口目には御用、御用……。屋敷者はほんとうに都合がいいね」

「屋敷者も楽じゃあねえ」

「楽じゃあねえ屋敷者を好んでする人もあるのさ。誰も頼みもしないのに……」と、お絹は口で笑いながら睨んだ。

「一体どこが悪いんだ。飲み過ぎたんだというじゃあねえか」

「両国の方へ寄ったの。お花に逢って……」

「むむ。みんなに逢った」

お絹はしばらく黙って俯向いて、油の匂う枕をうっとりと見つめていた。もう枯れかかった朝顔の鉢を一つ列べてある低い窓の外には、雨の音がむせぶように聞えた。

「林さん」と、お絹はだしぬけに言った。「あたし、お前さんにあやまることがあるの。実はおとといの晩、お花にうっかり誘い出されて、向島の料理茶屋へ行ったと思ってください。