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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
「こういう時に人間は悪気を起すのだ。出来るものなら俺も定九郎でも極めたい」
彼はこんな途方もないことまで考えた。そうして、自分でぎょっとしてあとさきを見まわした。彼の足は行くともなしに両国橋を渡りかけていた。橋番の小屋で放し鰻を買って、大川へ流してやっている人があった。林之助はその財布を引ったくって逃げたかった。
焦れてもあせってももう仕様がない。ひとの物に眼をかけるよりも、いっそお絹に借りた方が無事である。ほかに使う金と違って、これをお絹から借り出すのは何分にも心苦しく思われてならなかったが、今の林之助としてはこれが最もたやすい方法であった。お絹も病気で寝ている。そこへ押し掛けて金の無心をいうのはあまり無面目の仕方だとは思いながらも、まさか泥坊もできない以上は、このくらいのことは我慢するよりほかはないと、彼は思い切って橋を渡った。
「やあ、旦那」
楽屋番の豊吉に不意に声をかけられて、林之助はびっくりしたように立ち停まった。豊吉は楽屋の合い間を見て、お絹さんの家へちょっと見舞いに行って来たと言った。
「お絹さんはどうもよくありませんぜ。なんだかここがひどく切ないと言ってね」