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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

彼女は俯伏したままでまた正体もなく昏睡に陥ったので、お君はそっと寄って上から衾をきせてやった。縁の下では昼でもこおろぎが鳴いていた。

日が暮れると、豊吉をさきに立てて、お若やお花やお辰がぞろぞろと見舞いに来た。お花とお辰はさきへ帰った。豊吉とお若はあとに残って、お君と三人で薄暗い行燈のもとに黙って坐っていた。

さっきから幾たびも風鈴そば屋の声を聞くので、この頃の夜もだんだんに長くなったのが思われた。綿入れの節句もあしたに迫って、その夜寒をよび出すような雁の声が御船蔵の屋根のあたりで遠くきこえた。

「さびしいね」と、お若は襟をかき合わせた。

「さびしいなあ」と、豊吉も腕を組んだ。

大川の水の音もここまで聞えるほどに静かな夜であった。お絹は急に夢から醒めたようにもがいて、再び蛇ののたくるように蒲団の上を這いまわった。彼女は林之助の名を二度呼びつづけた。三度目にお里の名を呼んだ。

十五

豊吉が向柳原の屋敷へあわただしく駈け付けたのは、その夜の五つ半(午後九時)ごろであった。

「お絹さんはとうとういけませんでした」

「ふむ。いつ頃……」と、林之助もさすがに顔色を変えた。