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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《波多野邸(はたのてい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 頁

青空文庫

後悔などはなかった。それは初めから分っていた。四十五歳の未亡人の彼女と、世間に名を知られてる五十歳の文士、それが却って安全弁だった。体面への顧慮もあり、分別もあった。また、向う見ずな情慾も恐らくなかったろう、病気で田舎に行ってる妻が彼にあることは、万一の場合の堤防ともなる筈だった。条件が揃ってる安全な火遊びであった。否、火遊びといえるほどの積極的な意志もなく、自然の誘惑への無抵抗な陥没だった。彼の方にはただ甘える気持ちがあった。意力も体力も創作力も衰えてゆき、而もその衰弱を意識しないで、その日その日の自己満足に安んじていた。精神生活の停止もしくは低下に身を任せた安らかさだった。その安らかさに甘える気持ちは、無抵抗のうちに彼女へ倚りかかっていった。対象のない漠然たる甘え方が、彼女を得て、観念的要素を多く含んだ肉体的快楽までも伴った。そういう彼に、彼女も安らかに倚りかかった。政治や経済上の政策、つまりは手段とか方法とか謀略とか、そういう雰囲気の中にばかり生きてきた彼女にとって、彼の漫歩的な気質は、木の葉や草の葉のような新鮮さを持っていた。そして彼のとりとめのない談話によって、彼女は気分をいたわられ、感情の機微を擽られた。