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〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき
津田左右吉歴史論集
津田 左右吉
線上閱讀津田 左右吉《津田左右吉歴史論集(〔『しなしそうとにほん』しょはん〕まえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,004 字 · 156 頁
けれども、平安朝の貴族の間にはそれがよほど発達していた。『枕草紙』の開巻第一「春は曙、やうやう白くなりゆく山際、すこしあかりて、紫だちたる雲の細く棚引きたる」と見た色彩の観察を見給え。同じ書の「なほ世にめでたきもの」の条下にある「正月十日、空いと暗う」という一節は庭上の色彩が極めて微細に写されてあるが、「桃の木若かだちて、いとしもとがちにさし出でたる、片つ方は青く、いま片枝は濃くつややかにて蘇枋のやうに見えたる」というのは光線の効果が目にとまったものらしい。「心にくきもの」の条に「長すびつにいと多くおこしたる火の光に御几帳の紐のいとつややかに見え」といい、「いひにくきもの」の条に「有明の月のありつつもとうちいひて、さし覗きたる髪のかしらにもよりこず、五寸ばかりさがりて火ともしたるやうなる月の光」というような繊細の観察もある。言語上の機智を弄するのみで、芸術的価値の甚だ尠い和歌には一向こういうものが現われないが、『源氏』などの散文物語では何れにも多少はこの色彩の記述がある。尤も空の色などは大抵「浅みどり」位で簡単にかたをつけているが、ともかくも、日本の文学でこの時代の作ほど色彩の観念に富んだものはあるまい。