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かいすいよく

海水浴

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《海水浴(かいすいよく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,721 字 · 10 頁

青空文庫

その後故郷を離れて熊本に住み、東京に移り、また二年半も欧米の地を遍歴したときでも、この中学時代の海水浴の折に感じたような郷愁を感じたことはなかったようである。一つにはまだ年が行かない一人子の初旅であったせいもあろうが、また一つには、わが家があまりに近くてどうでも帰ろうと思えばいつでも帰られるという可能性があるのに、そうかと云って予定の期日以前に帰るのはきまりが悪いという「煩悶」があったためらしい。その頃高知から種崎まで行くのには乗合の屋形船で潮時でも悪いと三、四時間もかかったような気がする。現在の東京の子供なら静岡か浜松か軽井沢へでも行っていたのと相当する訳である。交通速度の標準が変ると距離の尺度と時間の尺度とがまるきり喰いちがってしまうのである。

その頃にもよく浜で溺死者があった。当時の政客で○○○議長もしたことのあるK氏の夫人とその同伴者が波打際に坐り込んで砂浜を這上がる波頭に浴しているうちに大きな浪が来て、その引返す強い流れに引きずり落され急斜面の深みに陥って溺死した。名士の家族であっただけにそのニュースは郷里の狭い世界の耳目を聳動した。現代の海水浴場のように浜辺の人目が多かったら、こんな間違いはめったに起らなかったであろうと思われる。