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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《焔の中に歌う(ほのおのなかにうたう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 頁

青空文庫

「ちっとも失礼なことなんかありはしないワ、日本の伴奏者には、おたまじゃくしの通りピアノを叩いても、あのハーモニカ程も気分の出ない方が沢山あるワ、ハーモニカは幼稚な厄介な楽器には相違ありませんが、あれだけ魂をこめて吹くと、そんなに軽蔑したものでもないでしょう」

「随分変な議論ですネ」

「まあ、議論はあとでするとして、一寸窓からのぞいて御覧なさい」

駒鳥絹枝は、ツと立ち上って、長椅子の上の窓掛を引きました。暑い西日が斜に入って、室の中が急に明るくなります。

立ち上って、絹枝の指す方を見ると、窓の外は直ぐ生垣で、垣の外は往来になって居ります。尤も何十分間に一人しか通らないという、山の手風の淋しい往来で、ここに立って、恋に痩せた男が、一時間や二時間「セレナーデ」を奏し続けたところで、お巡りさんに叱られるような事は滅多にありません。

見ると、なるほどその生垣にもたれる様に、一人の若い男が立って居ります。が、その姿を一目見て、深井少年はすっかり面喰ってしまいました。世界的歌手の窓下で、ハーモニカを吹く大胆者は、多分少し低能な不良少年で、ラッパ形のズボンでもはいて、カウボーイ風の帽子でも冠っているだろうと思ったのですが、実物を見ると、どうしてどうしてそんな厭らしいものではありません。