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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
線上閱讀林 不忘《煩悩秘文書(ぼんのうひぶんしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,705 字 · 173 頁
「しかし、そんなこと言ったって、真実、まったく、山へ行って来たんだからしようがねえ。」
「まあ、そんな詮議はあとでしてやるから、さっと上ったらいいじゃないか、じぶんの家じゃないの? 忘れたの?」
とお多喜は、口ではぽんぽん言いながらも、宗七が帰って来たことだけで、もうすっかりよろこんでいるようす。
足のほこりを払って上って来た宗七へ、
「お前さん、八丁堀の旦那から、毎日のようにお迎いだったよ。なんでも、またあの押込みが江戸中を荒らしだして――。」
「え?」
と言って、お多喜を振り返った宗七、それは、今までの宗七とは別人のように見えた。
女たらしのほかは能がなく、女房に頭が上らないと見えた恋慕流しの宗七――じつは、辰巳の岡っ引として、朱総を預っては江戸に隠れもない捕物名人なので。
いま、八丁堀からたびたび使いが――と聞いて、宗七、人間が変ったように、活気を呈し、顔まで引きしまったのに不思議はない。
「うむ、そうか。川俣様からお呼びか。」
と、きびきびした伝法な口調――が、その眼がひとたび、そこにすわっている狂女へ行くと、お多喜の説明を聞きながらと見こう見していた宗七、やにわに、愕きのあふれる声で叫んだ。