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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁
渡舟はぽんと岸辺をついた竿の勢いで、水の面にすべり出た。筒井の渡舟は西の方に舳を向け、男の渡舟は東の上流に向いて舳を立てた。二人は眼を合せて合図のように頭を下げ合ったが、下流に向う筒井の渡舟は俄然として舟脚を流れにまかせて、もう、かなり距って行った。それはわざとしたような迅い舟脚で、はなはだ卒気ないものであった。それにもかかわらず上流に逆のぼってゆく遅々たる舟脚は、しかも下流に向いて坐っている男には永い間、筒井の渡舟が眼を放れずについて来てならなかった。
「あの女にはもう再度と逢えないような気がする。」
男はなんとなく口のうちでそう自分自身に対ってはっきりと言い聞かさなければならぬような気がした。それほど荒涼無辺なところに彼の直覚がはたらいて行き、彼はそこで急激な絶望をありありと感じ出した。女の乗った渡舟はそれでもまだ眼路の果にあって、一つの黒い点になったかと思うと川すじが迂曲して、突然見えなくなってしまった。彼はその時あまりに熱心に見つめていたため、頭がしびれたようになってもう少しで渡舟のへりから落ちそうな不覚をおぼえたのであった。そしてそういう不覚の感じは一層彼から彼女を失ささせる、変な暗示のようなものをその心に殖やして行った。