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おおかみのかい

狼の怪

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《狼の怪(おおかみのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,063 字 · 10 頁

青空文庫

「あなたは、どうした方です」

女はそこへ蹲んでしまった。

「この、すぐ、前方の谷陰にいる者でございます」

「では、ここへ、何しにきました」

「月が綺麗なものでございますから、つい、ふらふらと歩いてきました」

章は咽喉元を嘗められたような気のしたのをおもいだした。

「私は、貴女の手を、どうした拍子に掴んだのか判らないが、なんだか夢心地に、咽喉元を嘗められたように思います、私の咽喉をどうかしたのですか」

黒い水みずした眼があった。

「どうも悪うございました、つい悪戯をいたしました」

章は無邪気な女を苦しめては可哀想だと思いだした。

「そうですか、私は、また、獣か何かが来て、嘗めたかと思いました、不意に手を掴んだので、びっくりしたのでしょう」

女の笑声がそこに起った。

「皆さんが心配してるかもわかりません、送ってあげましょう」

「有難うございます」と言ったが、女はもじもじして起ちあがらない。

「送ってあげましょう、私も猟にきて帰れないので、しかたなしにここに寝ておりますものの、ゆっくり睡れないのですから、貴女の家の簷の下でも拝借しましょう」

「では、お願いいたします」

章は立ちあがって猟袋を背にかけはじめた。