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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《猫と庄造と二人のおんな(ねことしょうぞうとふたりのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 頁
そう思うと、早く抱き上げて撫でてやりたくて、何度も窓から手を出したが、そのうちにリリーの方も、羞渋みながらだんだん体を擦り着けて来て、主人の為すが儘に任せた。
その時のリリーは、一週間ほど前から尼ヶ崎の方で姿を見なくなっていたことが、後に問い合わせて知れたのであったが、今も庄造は、あの朝の啼きごえと顔つきとを忘れることが出来ないのである。そればかりでなく、この猫についてはまだこの外にも数々の逸話があって、あの時はあんな顔をした、あんな声を出したと云う記憶が、いろいろの場合に残っているのである。たとえば庄造は、初めてこの猫を神戸から連れて来た日のことをはっきりと思い出すのであるが、それは最後に奉公をしていた神港軒から暇を貰って蘆屋へ帰った時であるから、彼がちょうど二十歳の年、つまり父親が亡くなった年の、四十九日の頃だった。その前彼は、三毛猫を一度、それが死んでからは「クロ」と呼んでいた真っ黒な雄猫を、コック場で飼っていたのであるが、そこへ出入の肉屋から、欧洲種の可愛らしいのがいるからと云って、生後三ヶ月ばかりになる雌の仔猫を貰ったのが、リリーだったのである。