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たまつきばのいちぐう

球突場の一隅

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《球突場の一隅(たまつきばのいちぐう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 頁

青空文庫

それは松井であった。傘を手にしながら殆んど半身は雨に濡れていた。

「まあどうなすったんですか。」

「球突きに来たんだよ。」

「おやそれはどうも毎度あり難う。」と云っておたかは笑った。

「なに実はね、今日昼間から友達の処へ行ったんだ。余り止まないから帰りかけたんだが、この通りびしょ濡れになってしまって、仕方なしに飛び込んだのさ。」

「あら大変濡れていらっしゃるわね。家に着換でもあるといいんですが。……あそうそう、」と云って彼女は大きく一つ息をした。「煖炉を焚いてあげましょう。少し早いんですけれど。じきに乾きますよ。」

「なにいいんだよ。」

それでもおたかは煖炉に炭をくべて、火を入れた。二人はその前に椅子を並べた。

「さすがに今日は誰も来ないんだね。」

「ええ、わざわざ濡れてまでいらっしゃる方はあなた一人ね。」

「これは驚いた。」

「いえ、だからあなたが一番御親切だと云うんですよ。」

「一番親切で一番厄介だというんだね。……だが一体こんな時には君はなにをするんだい。」

「え?」

「一人で隙な時にさ。」

「これでも、」と云っておたかは笑った。「種々な用事があって、そりゃ忙しいんですよ。