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しょうじょうるてん
生々流転
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《生々流転(しょうじょうるてん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 297,521 字 · 586 頁
「先生は、蜜蜂よ、やよ、と言っただけだが、――何だか知らないが、山にしろ川にしろ結局じれったいところに在るものを先生は欲しがりに行ったのじゃない」
と、苦笑いしますと、葛岡はおぞくも反射的に呟き返し、
「先生は、じれったいところに在るそんなものを取りに行ったのかなあ――そうかしら」
と言いましたが、次いで「こっちはじれったくもあるがそれより寂しくなって遣り切れないじゃないか」と悲しげな顔を挙げて、こゝからはだいぶ離れて来た赤城の山かげに眼をやりました。
二人はなお一気には山かげに遠ざかり兼ね、太田の町外れからバスがあるのを幸い、下野の平野を山の遠輪に沿うて横へ利根川べりの妻沼の聖天まで走らせました。手頃の距離に霞んで望まれる地蔵、鍋割、鈴ヶ岳などいう馴染の外輪山。大沼小沼の在所もほぼ目路に辿られ、あの辺から奥へ、いま私たちが憎みを起すほど勝気にまかせて一人で姿を隠して行った独身の中年女の哀れさ寂しさが美しい霧越しの裸体の俤のまゝに眼の宙に浮びます。こう恋々と山を眺め続けるうち、わたくしはなる程、先生が赤城の山を好くのも道理だと思って来ます。地殻に阻まれた地球の情熱が僅に必死と噴き出したものがこれらの山である以上、先生が同気相求めてこの山に結ぶのは、当然ではありますまいか。