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せいぜんしんごのこと

生前身後の事

中里 介山

線上閱讀中里 介山《生前身後の事(せいぜんしんごのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,804 字 · 83 頁

青空文庫

髯を動かして周囲の者を相手に頻りに話しをしていたのを覚えている、件の帽子を被っていたから人相はよく分らなかった。

それから、伊藤博文公は韓国統監時代に李王世子のお伴をしてであったか、なかったか三越へ馬車(自動車ではなかったと思う)を乗りつけてそこから簡単に統監服のままで馬車へ乗り降りする処だけを見た、これも細かな表情などは少しも覚えていない、哈爾賓で亡くなったのはそれから間もないことであった、それから原敬氏はこれも馬車であったか――たぶん箱馬車と思う――白髪に和服で悠然と納まり込んで走らせるのを見たし、都新聞の幹部会の時三縁亭の別室で一方には政友会の代議士総会があり、一方の別室に原敬と高橋是清と野田卯太郎の三人が額を突き合せて話をしているのを見たことがある。

軍人として、日本歴史上の名将東郷平八郎元帥の俤をすら親しくは余は一度も見たことがない、乃木大将は或時士官学校の前から四谷の方へ出る処、荒木町であったか、あそこを通りかかった時にひょこひょこと質朴な老軍人が坂を上って来ると思ってよく見たらそれが乃木将軍であった、後ろに人力車を引き連れていたかと思う。