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ちくけんだん

畜犬談

太宰 治

線上閱讀太宰 治《畜犬談(ちくけんだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,173 字 · 24 頁

青空文庫

ポチは尾を振って縁の下から出てきた。

「来い、来い!」私は、さっさと歩きだした。きょうは、あんな、意地悪くポチの姿を見つめるようなことはしないので、ポチも自身の醜さを忘れて、いそいそ私についてきた。霧が深い。まちはひっそり眠っている。私は、練兵場へいそいだ。途中、おそろしく大きい赤毛の犬が、ポチに向って猛烈に吠えたてた。ポチは、れいによって上品ぶった態度を示し、何を騒いでいるのかね、とでも言いたげな蔑視をちらとその赤毛の犬にくれただけで、さっさとその面前を通過した。赤毛は、卑劣である。無法にもポチの背後から、風のごとく襲いかかり、ポチの寒しげな睾丸をねらった。ポチは、咄嗟にくるりと向きなおったが、ちょっと躊躇し、私の顔色をそっと伺った。

「やれ!」私は大声で命令した。「赤毛は卑怯だ! 思う存分やれ!」

ゆるしが出たのでポチは、ぶるんと一つ大きく胴震いして、弾丸のごとく赤犬のふところに飛びこんだ。たちまち、けんけんごうごう、二匹は一つの手毬みたいになって、格闘した。赤毛は、ポチの倍ほども大きい図体をしていたが、だめであった。ほどなく、きゃんきゃん悲鳴を挙げて敗退した。