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しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
線上閱讀大下 藤次郎《白峰の麓(しらねのふもと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 頁
十二
トンボの小屋は、下湯島村から一里の、切立ったような山の半腹にあるので、根深き岩の裾を切込み、僅かに半坪ほど食い込ましてあとの半坪は虚空に突出してある。極めて小さな、そして極めて危険なものだ。僅か一坪の平地すらないこの辺の地勢から考えても、その勾配の急なことが知れよう。
ここは村から一番奥の焼畑で、あまりに離れているので、畑仕事の最中の俄雨に逃げ込むため、また日の短い時分、泊りがけに農事をするためにこしらえた粗末な建物にすぎない。焼畑というのは、秋に雑木林を伐り倒し、春に火をかけて焼く。そして燃残りの太い幹で、一間置きまたは二間置き位いに柵を造って土留として、六、七十度の傾斜地を、五十度なり四十度なりに僅かずつ平にして、蕎麦、粟、稗、豆の類を作るので、麦などはとても出来ぬ。もしこの焼木の柵を離れたなら、足溜りがなくて、直立していることは出来ない。山なき国の人は畑は平なものと思っていよう。私もかつてはそう思った一人であった。この辺の人々は、畠は坂になっているものと思っていよう。田もない池もない、早川や湯川や、滝のように流るる姿を見ては、水も恐らく平のものとは考えていないかも知れない。