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しらゆきひめ

白雪姫

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《白雪姫(しらゆきひめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,723 字 · 21 頁

青空文庫

このとき、阿曽の念頭にはハナのことはなかった。これは事実である。ハナは驟雨にうたれてザンバラ髪になり、眼のまわりに皺をためて、老人のような顔をしていたが、環境を理解して、自分だけの覚悟をきめたらしく、阿曽の自己的な振舞を見ながら、不平らしいこともいわなかった。

阿曽は雪の橋に足をのせて、大事業をやりかけたが、こんな悪性の女でも、自分がひっぱりだしてやるほか、誰も助けてやるものがないのだと思うと、いうに言えぬ感慨につかれて、そこで足をとめた。かならず成功するとはきまっていない。死ぬのは一人でたくさんだ。ハナを残したのは、そのほうがまだしも生きる希望があると観じたからだったが、こんな縁につながったのも、なにかの因縁なのであろうから、死ぬも生きるもいっしょにやろうと、ギリギリのところで翻然と通達した。いちど捨てたザイルをとりあげて、二人の身体を結びあわしたが、その瞬間、生涯になかったほど厳粛な感じがした。

阿曽が先に渡った。匍ったのか、のめずったのか、ともかく事もなく渡りおえた。阿曽は腰に巻きつけたザイルに両手を添え、氷の上にあぐらをかいた。

「渡って来い。