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ちちぶきこう
知々夫紀行
幸田 露伴
線上閱讀幸田 露伴《知々夫紀行(ちちぶきこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 頁
比えんかたを知らず。
古よりこの窟に入りて出ずることを窟禅定と呼びならわせる由なるが、さらばこの窟を出でたる時の心地をば窟禅定の禅悦ともいうべくやなどと、私に戯れながら堂の前に至る。この窟地理の書によるに昇降およそ二町半ばかり、一度は禅定すること廃れしが、元禄年中三谷助太夫というものの探り試みしより以来また行わるるに至りしという。窟のありさまを考うるに、あるいは闊くなりあるいは狭くなり、あるいは上りあるいは下り、極めて深き底知れぬ谷などのあるのみならず、岩のさま角だたず滑らかにして、すべて物の自然溶け去りし後の如くなれば、人の造りしものともおもわれず、七宝所成にして金胎両部の蓮華蔵海なりなどいう法師らが説はさておき、まことにおのずから成れる奇窟なるべく、東の出口と西の入口と相隔たること窟の外にてもおよそ一町ほどなれば、窟の中二町余りというも虚妄にあらじと肯わる。ただ窟の内のさまざまの名は皆強いて名づけたるにて、名に副うものは一もなし。
窟禅定も仕はてたれば、本尊の御姿など乞い受けて、来し路ならぬ路を覚束なくも辿ることやや久しく、不動尊の傍の清水に渇きたる喉を潤しなどして辛くも本道に出で、小野原を経て贄川に憩う。