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しんぴこんちゅうかん

神秘昆虫館

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神秘昆虫館(しんぴこんちゅうかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,803 字 · 213 頁

青空文庫

ただし昆虫館を閉ざしたのは、むしろ館主自身なのであった。

「山尼の徒が攻めて来た!」――伝騎が昆虫館へ知らせて来ると共に、次のような事件が起こったのである。

(一)「とうとう俺の心配していた、恐ろしい敵が攻めて来た。戦えばこっちの負けである。彼らはこの俺から永生の蝶を、手放させようとしているのだ。これはどうでも放さなければならない」こう云いながら昆虫館館主が、一匹残っていた雌蝶の方を、空高く放してやった事。

(二)「昆虫館は閉鎖する。館民は自由に立ち去るがいい」こう云いながら昆虫館館主が、建物の内へ引き籠ったので、多くの集まっていた片輪者達が、館を見すてて立ち去った事。

(三)ただし助手の吉次だけが、一人頑固に居残った事。

(四)桔梗様も父の館主と共に、昆虫館の内へ籠ってしまった事。

(五)そこで一式小一郎は、一旦関宿へ引っ返し、水難を遁がれた英五郎や君江と、再び顔を合わせた事。

美しくて平和で神秘的であった昆虫館という別社会は、こうして実に一朝にして、寂寞の天地に化したのであった。

さてその日から十日ほど経ったあるよく晴れた快い日に、一人の武士が馬に乗り、一人の女馬子が手綱を引き、三浦半島の野の路を、江戸の方へ向かって辿っていた。