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しんぴこんちゅうかん

神秘昆虫館

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神秘昆虫館(しんぴこんちゅうかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,803 字 · 213 頁

青空文庫

武士は一式小一郎で、そうして女馬子は君江であった。

「もうお帰りなさいまし」こう云ったのは小一郎である。

君江は笑って聞こうともしない。「いいえお送り致します」

そこで小一郎は揶揄うように、「かえって迷惑でございますよ」

君江は承知だというように、「お気の毒さまでございますこと」

今度は小一郎怒ったように、「ちと無礼ではございませんかな」

「まんざらそうでもございますまい」君江は少しも動じない。

シャン、シャン、シャンと鈴の音、カバ、カバ、カバと蹄の音、二人の旅はつづいて行く。

「どこまでお送りくださるので?」やがて小一郎はこう訊いた。

「はい、どこへでも、あなたまかせ」君江の返辞はハッキリしている。

「拙者、江戸表へ帰ります」

「それでは江戸までお送りします」

「いささか執拗ではござらぬかな」小一郎は今度は窘めにかかった。

「妾の性質でございます」依然として君江は驚かない。

「江戸までお送りくださるとして、一人で帰られるのは寂しかろうに」小一郎は今度は同情してしまった。

「何んの妾帰りましょう」

「え?」と小一郎は訊き返した。

「妾、いつまでもお側にいます」

「ははあさようで、それはそれは、しかし拙者は江戸へ帰れば、父の邸へ入るつもりで」