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まつりのよる
祭りの夜
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《祭りの夜(まつりのよる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,781 字 · 20 頁
事務所はほんの間に合わせのバラックで、とても寝泊りできるものではない。沖本はふと思いついたように、まあ用心棒にでも住込むか、と言って笑った。田岡政代とお留さんとが二人きりで、旦那の八杉はめったに来ず、無用心だというようなことを、小耳にはさんでいた。早速当ってみてくれた。返事は案外で、室の都合などは問題でなく、ただ、女ばかりだから却って、男のひとは……というわけ。逆に警戒されたのだ。それにも拘らず、彼女たちの口利きで、裏口がすぐ隣り合わせになってる谷口家の、六畳の室を世話してくれた。母屋と仕切られてちょっと出張ってる室だが、物置を改造したともいえるような、薄暗い所だった。その代り押入などは充分すぎるほどあった。
敗戦国の孤独人、そういう感懐が、三十歳未満の私の精神に却って媚びた。昼間は沖本建築社の事務や外交に働き、夜は労働問題や経済問題の書物を読んだ。室の横手にトタンの庇を出し、その下で自炊をした。
その自炊場が、田岡政代の家の裏口に向き合っている。私が竈の火などを焚きつけていると、お留さんが通りがかりに、なにかと注意を与えてくれる。政代も竹垣の向うから覗いて、退屈ざましのように出て来ては、暫く立ち話をしてゆく、お留さんの注意は、実際的な役立つことばかりだ。