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こうせんぜんじのことども

禅堂生活

鈴木 大拙

線上閱讀鈴木 大拙《禅堂生活(こうせんぜんじのことども)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,634 字 · 57 頁

青空文庫

今度は一人のつれがあったが、この男も「嚢中自有銭」底の男で、余り頼りにならぬ相手であった。昼頃、保土ヶ谷だったか神奈川であったか忘れたが、お腹がへり出して歩行困難となった。「何か食べねばいかんぞ」とは云うものの一膳めしさえ食べる余裕がない。「おい君、どうしよう」と互に嚢底を叩くと、三、四銭ほどか出て来た。「よし」と云うて焼芋を買うて、途々食べて帰京したこともあった。

このつれの男と云うは佐藤某と云うた、名は忘れた。第一高等学校の学生で、何時も李白の詩集を持って歩いた。この詩集を一日も放すことが出来ぬと云うので、参禅の暇にも見ておった。漢文臭い男かと思うと、中々そうでなく、政治家風の才子肌の人であった。本所に家があって、予も二、三遍尋ねた覚えがある。惜しいことには夭死した。今居ったなら一廉の人物となっておるに相違ないと思う。何でも議論風発と云う勢で、そうして東京育ちの弁を振うもの故、予の如き田舎漢はいつも遣りこめられた。

その頃の正伝庵は梁山泊同様であったと思う。何だかわしらにはわからぬ変てこな人物が沢山おって、天下の大勢を論じたり、古今の禅話を打したりなどしたので、わしらは隅の方に引っ込んで黙聴するより外なかった。