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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

正行が戦死したのは、それからわずか八日後の、明けて正平三年正月の五日だった。

四条畷、終日のたたかいは、壮烈をきわめ、彼の死も花々しいものではあったが、それはたれの目からも「――みずから死を求めて突っ込んで行ったような無謀な戦」と、評され、その気短な死に方は、

「なぜか?」

と、彼を惜しむ余りに人はいぶかった。

なにしろ、不可解なる“死に急ぎ”よと衆目は見たのだった。

これを戦略上からいっても、敵将の高ノ師直は、正月三日から四条畷をまえに重厚な陣をしき、武田伊豆守の先鋒はすすんで田の畔から平野の湿地帯にまですきまもない兵を充て、県下野守の一陣は飯盛山に、また佐々木入道道誉は生駒山の南に――といったふうに、無慮三、四万の大軍を霞むばかりにしていたのである。

そのほかにも。

遠い林間、はるかな丘の起伏にも、仁木、今川、宇都宮、山名、細川などの旗が、変通自由な遊軍として伏せていたのは、正行の眼にもしかと映っていたはずだった。

だのに、なぜか。その日の正行は、深重な策をめぐらすでもなく、全軍数千にもたりない小勢で、それも一角へ当たるというようなこころみでなく、まっ向、敵の師直のふところ深い本陣へむかって猛然斬り込んで行ったのだった。