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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁
費用は出すから、ひとつその壁や襖に貼られた反古を剥がして来て、わしに見せてくれんかの」
命松丸もそれはよい偲び草ともなり、またあれほどなお人の文字をもったいないことだとも考えて、双ヶ岡や吉田山の旧草庵の物をていねいに剥がして、やがて今川了俊の手もとへとどけた。それは分厚い一ト束にもなる反古の量だったので、ふたりしてこれを整理翻読したすえ、帖に編集したものが、すなわち後世に長く読みつたえられてきた古典「徒然草」になったのだった。
ふしぎな宇宙の識別というしかない。不壊の権力とみえる物も、時の怒濤の一波のあとには、あとかたもなくなり、反古に貼られた一法師の徒然な筆でも、残るいのちのある物は、いつの世までも持ちささえてゆく。
だが、兼好の逝った正平五年(南朝)はまだまだ足利家の内争が真二つにわれた直後で、彼の死などは、一片の枯葉とも見る者はない。
同年の十月。
蟄居中の足利直義――頭を剃って恵源といっていた直義は――とつぜん京都から姿を消した。
石堂頼房をつれて河内へ奔り、河内の石川城にいる同族の畠山国清の許にかくれ、南朝の朝廷へ、帰降(降伏)を申し出たのであった。