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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

――直義はまだ越前にいて動いていない。京都が危ないという風説なのである。

「嘘だ。流言にすぎぬ」

尊氏は後ろ向きをしなかった。それがほんとなら引っ返しても間に合わぬ。彼は、敵の術策を裏返しに、岡本坊の良円を、はるか東北へ密使に放った。

常陸の佐竹、野州の小山、白河の結城、宇都宮などへ、出兵をうながし、北方からの攻囲を命じたものである。

事実、直義はもう鎌倉に入っていた。そして管領の基氏(尊氏の次子、十歳)を追い出してそのあとに拠っていたのである。

しかし彼の軍は、由比、蒲原で破れ、富士川でも全敗した。直義はついに鎌倉を出、足柄山の険に立った。彼の形相ももう以前の直義ではまったくない。

直義の敗因は、東国の情勢を中央とおなじように自己の意志で動くものとみていた誤算にある。

だが、関東諸豪の間では、まだ何といっても、大御所尊氏の声望はそう失墜していない。

それにひきかえ錦小路殿といっても、恵源禅門とか前ノ副将軍といってみても、直義の名はとうてい尊氏を凌ぐほどな声威にはなりえなかった。

これを彼がさとった時は、宇都宮、小山、高麗などの思わぬ敵襲をうしろに聞き、また甲斐方面や海道筋には、富士川からこっち支離滅裂となった味方のなだれと、それを押して来る尊氏の本軍を見るなど、三方敵の重囲にあったのだった。