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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁
弟は自分のように狡くなかった。なお置文をたましいとして持っていた。自分はとうにただの古文書としていたものを、弟は純な初志と信条を離そうともしなかった。兄弟の葛藤の根はそこから来ている。そこで毒を呑ませて根の一方を兄たる自分が殺したのだ。ひとでなしでなければ出来ない。そしてまた、これからかかって来るであろう一生の仕事もまた、ひとでなしでなければ出来ない。それが尊氏の宿業なのだ。「……かんべんしてくれ」と、彼は初めて、直義の薄べったい体を、白いふとんの上から抱きしめた。若き日、口喧嘩のあげく、大蔵山の崖で取ッ組んだあとで泣き合ったときのように体じゅうで慟哭した。
夜が白む。尊氏は、そっと帰った。彼が延福寺へ来たことも帰ったのも、警固のほとんどは知っていない。
信濃ノ入道はすぐそのあとで、直義の遺骸はきれいに処理させてしまった。そして同朝、寺門のまえに兵を集めて、こういう発表を行った。
「恵源禅門直義公には、かねがね黄疸をわずらわれていたが、昨夜、事俄におかくれになった。お年もまだ四十七。惜しいことであられた」
兵はしゅんと聞いていた。
が、だれもがすぐ思い出していたふうである。