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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

すべてが惨だ。あわれでないものはない。

それにつけても、北朝の方々を、こんな憂き目にあわせた責任者は誰か。いうまでもなく義詮だった。いや尊氏でなければならぬ。尊氏こそは、根本の責任者だろう。

従来、

「皇室への畏みと、朝廷を大事と念ずる誠意とは、自分とて決して人後におちる者でない」

と、よく何かのばあいに彼が用いていた言葉も、いまはみずから放擲してみずから自己の非を暴露したもので、ただ巧みに皇室を利用して来たものといわれても、尊氏自身、弁解の余地はあるまい。

が、これは尊氏や義詮の誤算であった。これほどまでに、南朝がたの北朝処理が、峻烈に出て来ようとは、予想しえなかったところからの手落ちであろう。もし予想していたら事前に方法もあったはずだ。

ともあれ、尊氏は困った。自分の奉ずる帝室がそっくり賀名生の捕虜となってしまっては、どうしようもない。

彼は、あらたな苦慮をまたかさねていた。いまや北朝は空位空名でしかない。しぜん幕府も自己の立場も空疎なものに浮いてしまう。

八月。

彼は鎌倉から使いをやって義詮に策をさずけた。

光厳院の第三の皇子、弥仁親王(十五歳)を、しいて皇位に即けたのである。