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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

おん年は、この秋で、五十二。まだまだ老衰のお年ではなかった。「正統記」によると、

月の初めより

秋霧に冒され給うて――

とあれば、おそらくは、お風邪が昂じられた程度ではなかったろうか。

しかし、それが命とりの御終焉となったのは、ひとえにこれまでの心身のおつかれによるといってもよいであろう。即位いらい二十一年、およそこれほどみずからのおからだをみずからの理想の贄として酷使なされた天皇はほかにない。ためにお心を労ったことも、はなはだしい。

不遇で長かった皇太子時代には、青年らしい奔放な恋もし、また鬱を放つためには、後宮の女色漁りも人いちばいな方であった。しかし学問は終始怠らず、仏法の研鑽には、わけてなみならぬものがあった。すべてにむかって、その御精力は、精力の底までを、かたむけ尽さねば気がすまぬご気性だった。

が、その本質にかなっていたのは、なんといっても、政治であった。人間一代の仕事として何が最も崇高か。それは政治だという信念にもとづいておられたらしい。いいかえれば政治好きであったのだ。――もちろん、みずから全土の朝廷軍を御簾の内からうごかすの御意志は元々なかったが、しかし諸将を用いること棋盤の駒のごとく、機略縦横な謀略の才なども、ついには御自身を兵火のうちに投じ、またしばしば、獄窓につながれるなどの、帝王