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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

とし、その下に「これを思ふ故に」と、つづけて。

魂魄はつねに

北闕の天を望まん

もし命に背き

義を軽くせば

君も継体の君に非ず

臣も忠烈の臣に非ず

と、さいごの綸言を残され、そして左の御手に、法華経ノ第五巻を持ち、右の御手には御剣を抱いて、おかくれになったとしている。

これは、すさまじい御遺言の形相で、いかにも、さもあったらしく思われぬではないが、後醍醐は、古代東洋の学問に深く、宗教の面でも、なまはんかな仏家よりは、はるかな諦観を積んでおられたはずである。なんで死にのぞんで、世まい言にひとしい妄念を――苦しい御息の下から吐き給う――などのはずはない。「太平記」の舞文に過ぎない。

おそらくは、その寛達で豪毅な平常と教養からおしても、

これまでか

と、大死一番の死を観ておられたことと思う。

たとえ、大業ツイニ成ラズ――の御無念はあったにしろ、死んでも魂魄はつねに京都回復を望んでいるとか、自分の命にそむく天子は、天子も天子でないの、臣も忠義の臣ではないなどという、そんな妄想じみた御遺言をなさるはずはない。

さいごの、おん瞼に、あらゆる人々との別れを、しずかに、ただよわせたときには、後醍醐もただの一個の生命として……