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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

……いずれ、そこもとの発願も、後醍醐の怨霊しずめがその目的であろうでな」

と、尊氏の腹を見すかしているように笑って。

「じたい、禅家では、怨霊などというものは、嬰児の熱病ほどにも見ておらん。愚昧迷妄な沙汰とわらっておる。ゆえに怨霊鎮めの寺院の建立なら、怨霊信仰を大事にしおる天台や真言の祈祷宗教家のもとへ行っておたのみあるがよろしい」

と、今朝もひどくニベのない国師なのだった。

尊氏はこれにむっとした。しかし、世上にはその風潮がある折なので、自分の行為もそれに類するものと思惟されてもぜひはない。ただ夢窓には分ってもらえるかと思っていたのだ。

自分は、後醍醐を敵としてきた覚えはない。敵としたのは、その人でなく、何としても両立しえない、その人の中のものだ。思想だった。何で、怨霊などを恐れようか。

尊氏は言った。

「自分の一大寺建立の願いは、決して、怨霊恐怖などから出たものではない。国師の仰せは、ちと心外にぞんぜられる」

「しからば何で、一般の暮しさえまだなかなか苦しい今日、俄にそんな願望を抱かれたのか」

「一に、先帝の高徳を偲び、それの報恩のためと、またみずからの悔悟をなぐさめんとする念も、正直、ないではありません」