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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁
尊氏にとっては、大きな痛打であったし残念でもあったろう。彼はもう血みどろにあきあきしていた。血が万事を解決しないことも知っていた。
もっと彼の心に重量をしめていたのは、いまの優位のままあとは政治的な進展に乗せて行こうとしていたことだった。――それが破られたのである。――直義以下の大勢を前にして、彼はあのような度量のひろさをみせてはいたが、じつのところ、落胆は深かったろう。そして、ことしも来年も、また来々年も、なおまだ、不安定な幕府の発足と、戦いの連続をも、胸におかないではいられなかった。
「……自分の意志ではなく、しかも、自分の意志かのように、周囲はあらぬ方へ動いてゆく……?」
彼はふと懐疑する。大いに悩む日もあった。しかし彼にはこの頃、ひとつの慰安の場がなくもなかった。家庭が甦っていたからである。
丹波の梅迫から迎えられて、以後、都に定住となった尊氏の家族は、家来や侍女たちもいるし、なかなかそれは大人数だった。
母堂の、清子
みだい所登子
嫡男の千寿王、九歳
そして、腹ちがいの一子、
不知哉丸
は、ことし十五となっており、その生母の藤夜叉も、はや三十路をすこし出て、いまでは“越前ノ前”とよばれ、まったく、武家家庭の型に拘束された一女性になりきっていた。